2013年 11月号
絶望の隣は希望です
10月13日、アンパンマンの作者「やなせ たかし」さんが亡くなりました。享年94歳、「人生60までは予行演習」を本当に実行し(アンパンが売れ出したのは70歳前だったそうです。)
私の三人の子供はもちろん、私自身がアンパンマンには助けてもらいました。 (♪なんのために 生まれて 何をして 生きるのか こたえられないなんて そんなのはいやだ! という唄にはいつも励まされました。)
ヤナセさんが育ったという高知県は私の両親の里で、父は1つ下の年に生まれています。(父は93歳で死ぬ予定はありません。88歳で心臓の弁の移植手術しましたが…)幼い時に引き取られて育った高知県南国市というのは私の母の郷里です。
アンパンマンミュージアムというのがあるのですが、その傍らに「詩とメルヘン館」とかいうのがあって、そこで見た1枚の絵が忘れられません。その絵はバイキンマンの着ぐるみを着た男の子が、「アンパンマン 早く助けに来てよ」と泣き顔をしている絵です。
アンパンマンほど弱くて頼りないヒーローはいないと思います。チョット濡れたら力は出なくなりますし、「僕の顔を食べてください」と人に顔をあげるとジャムおじさんに違う顔を持ってきてもらわないと動けません。でも、いつも元気に人を助けに行くのです。そして、敵役のバイキンマンやドキンちゃんを退治しても完全に消し去る事はありません。悪い事をすると叱りつけるけれど、殺して消してしまう事は無いのです。
民主主義を表す言葉として「自由・平等・博愛」と私は習ってきました。自由と平等というのは、難しいけれど意味も必要だという事も判りやすいのですが、「博愛」というのはどういう意味でしょう。実はこれはフランス語のフラテルニテ、友愛の誤訳だそうです。友愛と博愛とは違います。博愛は動植物にもわたる普遍的な愛ですが、友愛は友や仲間に対する愛で、幅はずっと狭まります。ようするに身内は愛するが、それ以外は敵…というのがフランス革命の主旨だったようです。利害や意見の違いは争いにつながります。近世のヨーロッパの歴史はドイツとフランスを中心とした戦争と殺戮の歴史です。しかし、そんな厳しい歴史を経たヨーロッパだからこそ、利害や意見の違いを民主主義というルールで縛りました。そして今は死刑制度も廃止しました。戦争をやめるということは死刑(殺刑)をやめるということなのです。
ヤナセさんの弟は人間魚雷になって死にました。もうそんな事はやめよう、というのがアンパンマンの話の底辺に有るのです。それはきれいごとの夢、か希望だ…とあなたはいうかもしれませんが。
ヤナセさんの詩です。
“絶望の隣に だれかが そっと腰かけた 絶望は となりのひとにきいた 『あなたはいったいだれですか』
となりのひとは ほほえんだ 『私の名前は 希望です』“